更新日:2022年12月6日

害虫抵抗性作物

害虫抵抗性の遺伝子組み換え作物は、殺虫剤を使用せずに害虫による食害を軽減することができます。ここでは、害虫抵抗性の遺伝子組み換え作物として代表的な「Btタンパク質」を作り出すよう改良された作物についてご説明します。

遺伝子組み換え技術によって、特定の害虫に対して被害を受けない害虫抵抗性という性質を作物に付与することが可能になりました。害虫抵抗性作物は、殺虫剤を使用せずに害虫による食害を軽減することができます。

害虫抵抗性の遺伝子組み換え作物として代表的なものは、害虫に対して殺虫作用を持つ「Btタンパク質」を作り出すよう改良された作物です。殺虫剤による防除では、害虫の発生時期に合わせて何度も散布する必要があり、また植物の中に潜り込んでしまう害虫には効果を発揮しにくいという欠点もありました。米国では、毎年ヨーロッパアワノメイガEuropean corn borer(Ostrinia nubilalis )という害虫によるトウモロコシの被害が発生し、多い時にはその半数を枯死させてしまいます。ヨーロッパアワノメイガの幼虫はトウモロコシの茎の中に入り込んでしまうために、殺虫剤が効きにくく、被害が甚大なものになってしまうのです。一方、Btタンパク質はこのような穿孔性害虫にも防除効果を発揮します。このため、農家にとっては農薬を散布する手間が省けて、作業量、農薬使用量がともに減るというメリットがあります。現在までに、トウモロコシ、ワタ、ダイズ、ナスなどで害虫抵抗性作物が実用化されています。


進行性害虫による被害
進行性害虫による被害

(左)非遺伝子組み換え、(中央)害虫抵抗性遺伝子組み換え、(右)非遺伝子組み換えに殺虫剤を散布
(左)非遺伝子組み換え、(中央)害虫抵抗性遺伝子組み換え、(右)非遺伝子組み換えに殺虫剤を散布

Btタンパク質は、もともとは土壌に生息しているバチルス・チューリンゲンシスBacillus thuringiensis という微生物が作り出す殺虫性のタンパク質です。Btタンパク質を含む植物組織を害虫が摂取すると、Btタンパク質は、害虫の腸内において消化酵素により活性型に変換されます。活性型Btタンパク質は、中腸細胞の細胞膜に結合し、細胞膜に穴を開けます。穴が開いた細胞は浸透圧の変化によって破壊され、最終的にその害虫は死に至ります。

Btタンパク質は、B. thuringiensis が作り出す殺虫性タンパク質の総称であり、これまで数百種類が報告されています。殺虫作用には高い特異性があり、あるBtタンパク質は特定のチョウ目に有効、別のBtタンパク質は特定のコウチュウ目に有効という風に、種類によって殺虫作用のスペクトラムが決まっています。したがって、農薬よりも益虫などの非標的昆虫に対する影響は緩やかです。また、ヒトや動物ではこのような相互作用は消化管で起こらないので、Btタンパク質を食べても安全です。もちろんタンパク質ですので、すぐに分解され環境中に蓄積することもありません。そもそも、Btタンパク質は生物農薬としても何十年も使用されており、有機農業でも使用が認められている資材です。

進行性害虫による被害

なお、B. thuringiensis 以外の細菌からも類似した殺虫活性をもつタンパク質が同定されてきています。そのため、そのようなタンパク質を細菌性殺虫タンパク質(Bacterial pesticidal protein)と総称し、タンパク質の構造に基づいて命名則が整理されています1

1Crickmore et al. (2021). A structure-based nomenclature for Bacillus thuringiensis and other bacteria-derived pesticidal proteins. Journal of Invertebrate Pathology 186 (2021) 1074

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